つくばエクスプレス沿線を完歩してから1年半後。
2017年の春。
スケートボードを知人からいただいたぼくは、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように無根拠にわくわくしていた。
いてもたってもいられず、板を抱えて外へ飛び出す。
気が付けば、再びこの場所に来ていた。
相も変わらず、「TX(つくばエクスプレス)つくば駅」である。
『前回』を知りたいという方は、こちらの記事を参考にされたし。
どこか遠くに行きたいと思う時は、いつもここからのスタートだ。
一体どこまで行けるのだろう。
どれだけの距離分のエネルギーが、この衝動には秘められているのだろうか。
午後0時10分。再び、つくばエクスプレス沿線を進む移動が始まった。
滑れるところまで滑ってみよう。
沿線を行くと言っても、今回はつくばエクスプレスの駅をいちいち巡るつもりはない。
各駅巡りの旅は既に歩いてしているし、その徒歩移動に良い思い出がないので、あの時通った道に敢えてまた行こうという気にもならない。
とにかく、滑ることができれば良い。
知っている街の中じゃだめだ。
車輪は前に進むためについている。
既知の空間の中だけでそれを転がすのは、燻っているようでふさわしくない。
せっかく新しく手に入れた移動手段で、どこまで行けるのか試してみたい(本来は移動手段であると同時に、魅せる技術を磨くためのものでもあるはずだが)。
蹴って、蹴って、滑る。
速度が変われば、景色の見え方や受け取り方も異なってくる。
歩くという行為は常時能動的だが、スケボーならば「地面を蹴る」という能動的な移動時間と、車輪の回転に身を任せるという受動的な移動時間の両方がある(実際は板の動きをコントロールするために、体重の乗せ方を常に意識して脚を使っているわけだが、蹴るときに比べれば意識は随分外側に向ける余裕がある)。
周りの景色が流れるように過ぎていく。徒歩移動ではなかった感覚だ。
それを見ているぼくは受け身で、ドラマや映像の一場面の中にいるようにも感じられる。
つくば市内はでこぼこの荒い道が多いが、そこを出ると、なだらかで起伏の無い、滑りやすいアスファルト道が多い。
歩道と車道が分離しているところもそうだし、車道のみの通りでも車通りが少なければ気持ち良く滑れる。
程よく田舎だ。
しかしそれでも、時々転びかけたり、スケボーだけ先に滑っていったりして、数知れないドライバーをはらはらさせてもしまった。
ドライバーさん、たいへん申し訳ございませんでした。
そして、
午後5時10分。柏の葉キャンパス駅到着。
つくば駅出発からおよそ5時間で辿り着く。
徒歩移動の場合、最短距離を休憩なしで歩いて、6時間20分ほどかかるらしい(ぼくの歩行速度は、Googleマップの示すものとほぼ一致している)。
今回のスケボー移動では、途中1時間ほど休憩をはさんでも5時間ほどで柏の葉キャンパス駅まで来れたので、徒歩よりは明らかに速く移動することができたということになる。
車輪様様。
今回はもう、ここで満足した。
別に秋葉原行かなくても良いや。
つくば駅から秋葉原駅までは最短距離で60kmほどなので、単純計算で再び5時間ほど滑れば今日中に秋葉原に辿り着けるわけだが、もう気力の方が切れていた。
目的はそもそもつくばエクスプレス沿線を走破することではなく、スケボーへの好奇心を満たすという非常に場当たり的で曖昧なものだった。
秘めていたエネルギッシュさは、距離にして30km相当のものだったらしい。
出し切った。あー、すっきりした!
苦行のごとき前回とは異なり、清々しい気分で今回は移動を終えられた。
駅の目の前のショッピングセンター「ららぽーと」でアイスを買い、食べる。
程よい体の疲れを抱えて、板を抱えて気持ち良く電車で帰りましたとさ。
結果とまとめ
つくば駅→柏の葉キャンパス駅
往路:5時間
復路:23分
こうして比べてみると、電車はやっぱり圧倒的に速い。
TX様様。
スケボー移動は、非効率的と言えば、間違いなく非効率的だ。
流れる景色を楽しみながら進むのであれば、自転車の方が速い。
細かいところに気づきながら進むのであれば、散歩のように行く方が良い。
その両者の良いところ取りと言えばそうだし、中途半端と言えばそれもそう。それがスケボー移動だった。
持ち運びが簡単なことが、移動手段としてのボードの1番の良さだと思う。
板一枚抱えるだけ。電車に乗っても、特に邪魔になることもない。
歩きたいときに歩き、滑りたいときに滑り。
悠々自適な旅の、「自適さ」の選択肢に加えるにはちょうど良い。
今回は、柏の葉キャンパスで終えたから以上のような感想が出た。
東京の方まで行けば、人も車も多くなるので、また違ったことを言っていただろう。
開発されながらも、まだ穏やかな時間が流れることも多い、つくばエクスプレス沿線地域の側面を見た移動であった。
おしまい!
(追記)
この3週間後に顔面から転んで、全身擦り傷だらけになって以来、スケボーにはあまり乗っていない。