初版 ぼく語辞典

つくばエクスプレス沿線を完歩すると何が起こるのか。(道中編)

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つくばエクスプレスをご存じだろうか?

秋葉原駅とつくば駅間を結ぶ私鉄であり、現在東京からつくば市へ最速で行ける手段であるとともに、つくば市に唯一通っている鉄道でもある。

ところがこの運賃がなかなか高い。少なくとも我々学生にとっては高い。

確かに東京とつくば市の間を最短45分で結ぶ速さは魅力的だ。
しかし、運賃に選択肢がないのだ。普通列車も快速列車も大人はみんな一律1190円(ICカード利用で1183円)なのである。

 

この世には2種類の人間がいる。

 

つくばエクスプレスの料金は高い。

「それなら、歩くか。」と思う者とそうでない者と。

 

幸か不幸か、ぼくは前者であった。

調べてみたところ、つくば駅から秋葉原駅までは、最短距離で歩いて約60km。

「まあ、でも、せっかくならつくばエクスプレス全駅寄っていきたいよね」

とつい考えてしまうぼくもいる。確かにそちらの方が達成感がありそうだ。その場合何kmになるかは分からないが、そう大差はないだろう。どのみち沿線だ。

思い立ったが吉日。

行くしかねえ!!


果たして電車賃1190円を払うのと、徒歩で行くのとではどちらがお得なのか?

そして、つくばエクスプレス沿線を完歩すると一体何が起こるのか?

 

つくば駅発、秋葉原終着。

つくばエクスプレス沿線全20駅を巡る徒歩旅行の始まりだ。

 

ウキウキわくわく!さあ、ドキドキの出発だ!

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11月下旬。

午前10時。つくば駅。

旅立ちというのは、いつだって無根拠な高揚感に溢れているものだ。

まだ何も起こっていないのに、ひどくわくわくする。
いや何も始まっていないからこそ、起こるかもしれない何かへの可能性に期待できてしまう。

何がぼくを待っているんだろう!素敵な出会い!素敵な景色!
もしかして素敵な運命の人が!?

秋葉原にたどり着いたとき、どんな気持ちになれるんだろう!どんな光景を見ることができるのだろう!

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豊かな秋晴れの下、足取りも軽やかである。

ハロー、そしてボンジュール。この美しき世界。いつもと変わらない世界。

 

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すいすいとぐんぐんと歩いて行く。

あっという間に「研究学園」「万博記念公園」駅を通過する。

万博記念公園駅のあたりまで行くと、建物の数も減り、田畑や野原の割合が増えてくる。
普段列車の窓から断続的に見ていた景色が、自分の住んでいる街と確かに地続きであることを足で知ると、少し不思議な感じがする。

 

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午後11時半、「みどりの」駅通過。

これにてつくば市内の駅は全てクリア。

そしてここから少し歩いて正午ごろ、つくばみらい市に入る。

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つくばみらい市には、アシックスの物流会社がある。
御社の製品、履かせていただいております。

そして12時20分、5番目の駅「みらい平」到着!
TXの駅は、路線の規模のわりに、駅舎がでかでかしい傾向にある気がする。

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案外、すいすい進めるものだ。

これなら、思ったよりも早く秋葉原につけそうだ。さすがに今日中には無理だろうが、明日の昼頃には着けるのではないだろうか。

 

足腰異常なし!つくばみらい市を進め

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みらい平駅の向かい側にスーパーマーケットがあったので、そこで昼ご飯を買うことにする。

大型の店舗で、中には休憩用の机と椅子もあったので、適当に弁当を買ってそこで食べることにする。

Googleマップを開き、どのくらいの距離を歩いたか確認。

 

距離にしておよそ16km
ペース的には、Googleの示す歩行速度とほぼ同じ。可もなく不可もなくといった感じか。

のり弁当を美味しくいただき、さあ再出発と立ち上がろうとしたとき、少しだけ違和感があるのに気が付く。

足首がかたまっている。ふくらはぎもかなり張っている。足首を軽く回すと、ポキポキと音がした。
同時に強烈な眠気が襲ってくる。

まあ、昨日の夜は確かにあまり眠っていなかったかな…。4時間睡眠くらいだろうか。
普段8時間は寝るぼくにとっては、相当短い睡眠時間だ。遠足前の子どものように、眠れなかったのだ。

現状、予想以上に順調に進んでいる。無理に急ぐこともないだろう。
2,30分ほど、軽く目を閉じて休むことにした。

 

そして午後1時
立ち上がると、さすがに疲れは多少出てきているが、問題が生じるほどではない。
しかし、瞼は未だやや重たい。

睡眠欲。こいつが厄介だ。

いくら体が大丈夫とはいえ、気力がなくては前には進めない。
睡眠不足、恐るべし。

とはいえ、これ以上ここに立ち止まると、おそらくますます起きる気がなくなってくる。

「眠いかい?それでも、とりあえず進んでみよう。
大丈夫だよ、ほらご覧。ぼくは沿線を歩いているんだから、いざとなったら電車で帰れるさ」

と甘言を自身にちらつかせ、眠気を覚まし(というよりも気を紛らわせ、軽くさせ)、再び出発。

秋の午後は眠いにゃあ。

 

みらい平駅から次の「守谷」駅までは、最短距離でおよそ6km。
道にさえ迷わなければ、およそ1時間15分あればたどり着ける。

しかし、せっかくこんなに天気の良い日に外にいるのだ。
しかも、知らない街に来ているのだ。
観光ツアーとまではいかないまでも、どこかに寄り道でもしたい。

どうせゴールは決まっている。
それならば道中を楽しんで進みたい。

というわけで来ました、「板橋不動尊」。

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真言宗寺院で、開創なんと1200年もの歴史を持つ加持祈祷の道場なんだそう。
つくばみらい市、という現代風なきらきらした名前の街の中に「板橋不動尊」があるというのは、文字の上での違和感がすごい。

つくばみらいという街の名が、重々しい響きをもつ1200年後はあるのだろうか?

 

続いて「小貝沼橋」。小貝川にかかる古い橋だ。

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橋幅わずか1.5m。

そこはかとない侘しさを漂わせる。小さく、昔ながらの趣がある橋。
実際ドラマや映画の撮影にも使われたことがあるそう。

ここに限らず、つくばみらい市では結構歴史ドラマの撮影がされている。スタジオもちゃんと整備されている。大河ドラマを見ると、撮影地につくばみらい市の名があることもしばしばだ。

 

道の途中で、あちらこちらの立ち止まりながら進んでいく。
寄り道こそが、旅行の醍醐味!

魔境

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そうこうしている間に、徐々に予定が狂い始めてきた。

午後4時。「守谷」駅到着。

午後4時。そう、すでに午後4時である。

みらい平を出たのが午後1時。本来なら1時間弱で、ここまで来られるはずだった。気づけばもう3時間も経っている。距離にしておよそ10kmの損失。今日は果たしてどこまで行けるのだろう。

ちなみにこの旅行を行ったのは、11月27日のこと。11月の4時過ぎと言えば、日はすでに傾き、夜のとばりが徐々に降りてくる時間。

ところがぼくがいるのは守谷。つまりまだ茨城県内なのだ。
これから千葉、埼玉をまたいで東京へと向かわなくてはいけないのに、まだ1つ目の県すら抜け出せていない。

もちろん県によって線路がカバーしている範囲は異なるので、全く前進していないというわけではないが、未だ「1/4都県」という数字の上での事実はメンタル的にやや重いものがある。

もう寄り道なんてしている場合じゃない!
急がねば。

この守谷駅をもって、つくばエクスプレス沿線内の全茨城県内の駅をコンプリート。これから茨城県の端の取手市に入り、利根川を渡って千葉県に行く。

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街中歩行中にも、どんどん日は傾いていって………。

 

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茨城県取手市と千葉県柏市を結ぶ「新大利根橋」に着くころにはすっかり暗い。

午後5時20分。
日が傾いていると認識してから沈むまでの速度が、冬至が近づく時期は尋常じゃなく早い。

 

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この橋が長いんだよなあ。
いつまでも景色が同じで単調な道というのは、疲れつつある体を奮い立たせる気力すら奪っていく。

昼間なら利根川やその河川敷の景色を楽しめたのだろうが、暗くてもうあまり何もよく見えない。

気が付けば橋上にて、やっと千葉県柏市にたどり着いていた。午後5時半

 

寄り道なんてしないであと2時間早くここに来ていたら、もっと綺麗なものが色々見られたんだろうなあ。千葉到着の感慨もあったかもしれない。何が起こるか分からないときは、寄り道よりも最短ルートを取るべきだったのかもしれない。

と反省のような思いも湧いてくる。
反省はしている。だが、後悔はしていない。

 

いや、今はそれ以上に深刻な状態だった。 
反省も後悔も、もはやどうだっていいと思えてきた。

いつの間にか、思考に支障が出るくらい、身体に疲労がたまり始めていた。

早く休みたい。
ハヤクヤスミタイ。
早くどこか風の当たらない場所に入って、目をつむってしばらくそうしていたい。

 

ようやく橋を渡り終えた。

もうすでに日は沈んでいる。今日はもう、完全なる夜を残すのみ。

地図をご覧になると分かるとおり、守谷駅から次の「柏たなか」駅に行くためには、線路に対してぐるっと迂回していかなければならない。もはや「沿線」旅行とは言えないレベルだ。

 

今、利根川の上を渡り終えた。

しかしながら、そこからGoogleマップの示す最短経路には歩道がない。
横に田畑の広がる2車線道路。車道の端に、細く歩行者・自転車用の線が引かれているが、田んぼと線との間が細すぎて、もはや綱渡り感覚だ。

そのうえ、車は容赦なく次々とひっきりなしにやって来る。
辺りはもはや、車のライトがまぶし過ぎるくらいに暗い。

これでは命が危ない。

 

仕方がないので、アスファルト道をそれて、田畑の間の道へとそれる。
土や草を踏みながら進む。田畑ゆえ、街灯なんかはない。ありがたいことに、さっきまで歩こうとしていた車道沿いの明かりが少し届いてくれていたので、それで道は何とか視認できる。が、時々iPhoneのライトを使わないと、厳しいところもある。

ふと来た方向を振りかえると、先程渡ってきた橋上の灯りが規則的に並んでいるのが見える。そのライン上に、ひとつ、やけにでかでかとした灯りが1つ見える。

真っ赤な月が、不気味に重々しく浮かんでいた。

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印象的だ。記録しておこう、とiPhoneのカメラで写真を撮る。そして撮影の次の瞬間、iPhoneの画面が消えた。

充電切れだ。

なんてこった。

なんということだ…。

辺りは暗い。そして寒い。足が重い。月が怖い。道はもはや分からない。

ここは何だ。
本当に今まで来た道と地続きのどこかなんだろうか?

アスファルト道からは離れた。
人間生活の基本たる住居や建物からも離れた。街の灯りからも離れた。
いつの間にか体の一部かのようになっていた通信機器の充電も切れた。
ゆえに地図ももう見られない。
ここは一体どこなんだ?

11月下旬の夜である。
日没とともに、日差しを失った世界は、その気温の正体を現し始める。同じ12,3℃でも日差しがあるのとないのとでは大違いだ。

風が吹いてきた。
道は分からない。
月が巨大に、不気味に浮かんでいる。こちらを嘲笑っているようだ。

 

つくばエクスプレス沿線を完歩しようとすると、何が起きるのか。
思ったよりも順調に進んだり、思ったよりも受難だったり。

 

エクスプレスなんてカタカナ言葉を使っている場合じゃねえぞ。
思ったよりも、よっぽど汗臭い旅行になりそうだ。

 

〈後編に続く〉

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